散歩好き

井の頭公園で犬とまったり。

パワー・オブ・ザ・ドッグ

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アップリンク吉祥寺で「パワー・オブ・ザ・ドッグ」を観てきました。

 

ttcg.jp

ベネディクト・カンバーバッチが変なヒゲのマント男ではなく、ものすごく男臭く(本当に臭そう)しかし繊細なキャラクターを創り上げた本格派俳優であるということを思い知らされる一作です。そしてジェーン・カンピオン監督…相変わらず薄ぼんやりと刺してくるようで怖い。

 

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「ブロークバックマウンテン」でも描かれていたように、この時代この地域でゲイだとバレるとリンチ死する恐れがありますので、死にたくなければ隠さねばなりません。が、色にでにけり我が恋は…いや、死を賭してでも貫徹したい恋というのがあるのでしょう。

カンバーバッチ演じるフィル・バーバンクはイェール大学の文学部を出、音楽の素養もありながら粗野で残酷な人間でもあり、牧場主として仲間の中心に君臨している。彼は師のブロンコ・ヘンリーを敬愛しており、彼の男らしさを事あるごとに仲間に語って聞かせるのだが、実はここはあえてカンピオン監督ははっきりとは語らないが(まあ大体彼女はいつもそうだ)「なんらかの関係」があったことをシーンで表現しています。ていうか、今作は珍しく非常にわかりやすい。

彼はいつも欲している…自分と共感でき、ひざまづかせ、敬愛の対象となる人物を。それ以外は敵か、従僕だ。しかしお嬢ちゃんと嘲っていたピーターのあることへの答えを聞いて彼は驚愕する、求めていた人物が現れたと。

そこからはひたすら彼は純愛の虜となり、残酷なことにそれが元で死んでいくのだが、愛の対象であるピーターはそもそも母以外誰も愛してはおらず、母の幸せのために「障害は取り除く努力をしろ」という亡き父の言葉を実行するサイコパスだ。母をサディスティックにいじめ抜く女嫌いのフィルは覗かねばならない障害物でしかなかったのだ…おそらく暴力を振るう父も。

ユダヤの民の神に見捨てられた絶望と望みからの祈りである「私の魂を剣から救い、犬の力から救い出してください。」という聖書の一節から題名は付けられています。父に虐待され、フィルに虐げられた弱き母を守るのは自分である、と命を奪う神となったピーターは、優しい継父と母の姿を見て満足気に微笑む。犬の力から守ってやったのだと。

しっかし対象的な兄弟だな〜。弟のジョージは学歴はイマイチだけど優しくキチンとした服装の良識ある紳士だ。でもやっぱりフィルに惹かれてしまう私は、どうやったって幸せにはなれない体質だ…。