散歩好き

井の頭公園で犬とまったり。

シュヴァルの理想宮

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角川シネマ有楽町で「シュヴァルの理想宮」を観てきました。

年末年始忙しすぎて疲れきっちゃって、「成人式終わったら行こう」と思ってたら上映が早くなっちゃって…朝早く出るのめんどくさいしどうしようかな、と思っていたけど案外早く支度ができてシャッと家を出たら電車に間に合ったので、電車乗ってからオンライン予約しました。観逃さなくて本当によかった、この感動を体験せずに人生を終わるところだった…

 

cheval-movie.com

ポスターをよく見たら間違うはずがないのに、勝手にインドとかの話かと勘違いしていましたが(;´Д`)フランス南東部のお話です。

 


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 この人は郵便配達員なのですが、100年以上前の話なのでスーパーカブどころか自転車さえ使わない時代なので、寡黙な彼はひたすら山を越え川を越えて歩いて歩いて、その間色々な想像を膨らませていました。そして娘が生まれた時、嬉しさや愛の言葉をどうやって伝えたらいいのかわからず、しかし彼の中で膨らみすぎた喜びはある石に偶然つまづいたことで爆発を起こし「娘を宮殿に住む王妃にする!」と城を作り始めるのです。

日本人はあんまりとことん話をして理解しあうということをしない傾向にあります。よくハリウッド映画で「I need to talk with you!」というフレーズが出てきてうんざりするのでヨーロッパでもそうなのかと思っていましたが、シュヴァルさんのような人もいて逆に安心しました。無口なお父さんの通訳をするお母さんがフランスにもいるのかあ。

一般の人である職業についていて芸術を生業としていない人の芸術を素朴派というそうですね。この人の芸術的才能は、娘が生まれなかったら発露しなかったのだろうか。人には人生を変える一瞬って結構普通にやってきてて、そこに乗るか乗らないかっていう絶妙のタイミングがあるような気がします。私もあの時気分が乗らないからって断っていたらいま着付師ではないな…たいしたことじゃないな…

こう書くとただ趣味の延長でやってたように見えますが、シュヴァルさんの入れ込み方はまず仕事10時間の後に夜お城作り10時間ですので、明らかにやりすぎです。

彼の情熱は何処から来るのか。彼は思っている事を上手に相手に伝えることが出来ません。たぶん幼い頃からずっとそうだったのでしょう。ですから誰かに気持ちを伝えるのを諦めていたのですが、娘を愛している気持ちだけは伝えたい、伝えなくてはいけない、伝えずにはいられない。思いの爆発はやがて大きな奔流となって流れ出す。心の叫びは時に引き裂かれるようでもあり、また彼を内側から切り裂くものでもありましたが、やがてその叫びは下流の河のように広く緩やかに人々に伝わるようになったのです。

そんな彼の芸術作品・理想宮はただごとではなくて、フランスのガウディですよ。まるで地から生えてきたよう。彼のお城は自然の中から掘り出され、伸び、形作られたように見えました。

そしてそのお城は、娘の運命、息子の理解と助け、妻の愛を栄養にして育ち、孫娘アリスの結婚式で結実します。美しい王女と王子の結婚式、ライティングされたお城、優雅に踊る招待客…おとぎ話のような風景をシュヴァルさんはどのように見つめたでしょう。彼が何回も娘アリスに語って聞かせた王妃の話。いま孫娘アリスが子のお城の王妃となってシュヴァルさんの心の厳しい寒さを取り去ってくれたのです。

偏屈だ、頭がおかしいと言われた男の夢はお城になって、今現在文化財としてフランスの宝になりました。いつかここに行ってシュヴァルさんの夢を私も見て、王妃になりたい。