散歩好き

井の頭公園で犬とまったり。

沈黙-silence-

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TOHOシネマズ府中で「沈黙-silence-」を観てきました。原作を読んだのは中学生の時…うっすらとしか憶えてないなあ…と思いつつ始まるといきなり度肝を抜かれるオープニング。ああそうだった、読んでる時「早く読み終われ」と思いながら読んだんだった。

17世紀、江戸初期。日本で捕えられ棄教したとされる宣教師フェレイラを追い、激しいキリシタン弾圧下の長崎に潜入したロドリゴとガルペ。彼らは日本での想像を絶する光景に驚く。やがて彼らは、弾圧を逃れた“隠れキリシタン“と呼ばれる日本人と出会う。(ぴあ映画生活より)

フェレイラはリーアム・ニーソン。96時間あれば切支丹全員救えるんじゃないかっちゅう気もしますがそうはいかない。

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ロドリゴ(アンドリュー・ガーフィールド)とガルぺ(アダム・ドライバー)が教会で話し合うシーン。ここはリスボンのサンロケ教会です。急な斜面を登る路面電車に乗って頂上にあるサンペドロデアルカンタラ展望台(ミゲル君が「消〜臭〜力〜〜♪」とチカラいっぱい歌ってたところ。)、そこから石畳の道を3分ほどでイエズス会のサンロケ教会に着きます。ここにはイエズス会の初期メン大スター、フランシスコ・ザビエルの耳と毛(怖っ)が奉納されています。ポルトガル行ってよかった。

そしてここは天正少年使節団が宿泊していました。その中の千々和ミゲルは穴釣りという、耳の後ろに傷をつけて頭に血が上ってすぐには死なないようにしておいて逆さ吊りにし、頭の部分を汚物の入った穴の中に突っ込まれてフタをされるという拷問を受けて殉職しましたが、その同じ場でフェレイラも拷問を受けて最後まで生存し、棄教したということです。

ここで「人間にとって宗教とは何か」などという壮大な評論をするつもりはありません。が、この映画を観たバチカンのある枢機卿が「宗教的弱さを容認してはいけない」と言ったとか。

キチジロー(窪塚洋介)は弱い信徒の代表です。踏み絵を踏んでは告解し、十字架にツバを吐いて逃げては告解し、裏切っては告解する。確かに強い信念を持って死ぬのはとんでもなくすごいことだけれど、弱くてもずっと信じる力を持って一生を全うするのは、キリスト教的に許されないのだろうか。

シロートの私から見ればそもそも教義などはイエスの死後に他の人間によって成立されたものであろう。それは時代によって左右される(魔女狩りなど)、脆弱なものでないのか。

この映画で驚いたのは、切支丹を取り締まる役人が極めてお役所的であり、信徒に向って「こんなの(踏み絵)は形式だ。暑いからさっさと終わらせてみんなで休もう」とハッキリ言うシーンです。これは暗に「信じるものはどうしようもないので、形式上キリスト教を棄教すれば私たちの仕事は終わり。後は関知するところではない」という官僚的合理主義の現れではないだろうか。そしてここにこそ、江戸時代のお役人が宗教をどう捉えていたかを見ることができるし、意外に本質を突いた部分ではないかと考えます。

心は拷問で変えられない。棄教がなんだって言うのだ。踏み絵などは踏めばいいし、見かけ仏教を信じてるようにすればいい。神が進んで助ける存在ではなく、共に苦しみ喜びを分かつ存在であるとすれば、信じる心はわかるはず。イエスは全ての人の罪を背負って死んでくれた存在なのだから、人の弱さを許さないとは思えないのです。

ユダは裏切りから立ち直れず自殺してしまったけれど、ペテロはイエスを裏切った自分を立て直した。目に見える形で行動するかどうかの違いはあれ、神を信じ続けたキチジローとはそう違いはあるまい。キチジローもペテロも漁師だというところが遠藤周作先生の暗喩ではないのか?と思ったりするのですが…

それにしてもお役人達がキリスト教が日本に伝来してもともとの教義から遠いモノに変質してしまっていることを理解していたり、理論的に矛盾点を付いたり日本にこの宗教が根付かない理由などを示すのも興味深い。また浅野忠信扮する通詞が、人種的偏見ではなくポルトガル人宣教師の日本人に対する差別的考えを看破した上で否定するのも面白いのです。

資料が残っているので遠藤周作先生の現代的考えに基づく創作でないらしいですが、いやー、不勉強でした。江戸の人って思ってたよりずっと理知的だったのね。 最初から最後まで明るいところの少ない映画で、行くのに気が滅入るとは思うのですが、ぜひ観ていただきたい映画です。レビューがこんなに長くなってしかももっと書きたいと思うほどに。

※フランシスコ教皇様もこの映画をご覧になって、キチジローのシーンで爆笑していたそうな…どこでそんなにウケたのかよくわからないですが、以下教皇様のツイート(この映画の感想とは限らないですよ)↓

「神の愛は一人一人の心を見通し、そこに隠された最も深い望みを理解します。それはすべてに勝り、最上位に置かれるべきものです RT @Pontifex The love of God, which can look into the heart of each person and…」