散歩好き

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ペンタゴン・ペーパーズ-最高機密文書-

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TOHOシネマズ新宿で「ペンタゴン・ペーパーズ-最高機密文書-」を観てきました。

女性というだけで能力を認められていなかった時代のお話です。あ、今もそうか。

ベトナム戦争の長期化により7000枚以上となった客観的戦況分析書類「ペンタゴン・ペーパーズ」。ニューヨークポストがスクープしたその文書の残りを入手したワシントンポストでは、法律違反で起訴されることは明らかなので掲載をやめるか、公共の利益のために掲載するのか、選択を迫られたワシントンポスト発行人キャサリン・グラハム(メリル・ストリープ)の実話。

さすがはメリル・ストリープ。老眼鏡を小道具として効果的に使う演劇的手法を用いて、キャサリンの無意識的心理を巧みに表現しています。冒頭ベッドの中でも仕事の資料を開いて勉強しているキャサリンは、目を覚ますと同時に眼鏡をかけ、綿密な資料を作成して眼鏡をかけて発言しようとしますが、周囲の男性役員たちは彼女に意見を求めようともしません。眼鏡を握りしめたり、もてあそんだりしていたキャサリンはそのうちスピーチの原稿を読むとき原稿の近くであてて、あえて眼鏡をかけずにスピーチをこなします。そして最終判断を下すときは眼鏡をもう持っていない。眼鏡はキャサリンの、周りの男性たちに対する依存を表しているのです。

周りを固める俳優陣もトム・ハンクスをはじめとする芝居巧者ばかり。スピルバーグ監督作品だけあってすごいスピード感でストーリーが進んでいきます。すごい映画です。ですが…これもやはり事実を基にした映画「15時17分発、パリ行き」を観た後では少し印象が変わってきます。

主要人物である3人の若者をまさかのご本人に演じさせてしまったこの作品はある意味物議をかもしましたが、素人くさい演技が意外にも演技を超えたリアルを感じさせてくれました。そのあとでこれまた事実を基にしたこの「ペンタゴン・ペーパーズ」を観ると、あまりにも計算されつくしたメリルの演技が…あざとく見えるのです。周囲もメリルのテンションに合わせた演技をしているので、全体が妙にドラマチックに盛り上げまくった再現ドラマのような空々しい雰囲気に見えてしまうのはわたしだけなのでしょうか。

確かに女性差別、政府の事実隠蔽など現在どうしても映画が伝えるべきテーマが詰まった良作ではありますが、いち主婦であったキャサリンがいかにして偉大なヒーローとなったかを描くのではなく、社主である父が死に、後を継いだ夫が自死し、否応なく報道という男の世界(当時)に巻き込まれ、父の残した社の危機に際して自分を超えた女性を描くのにメリルの演技は重すぎる。もうすこし全体にテンションを落として、私たち女性にもっと身近に感じられる存在として演技してくれればより一層心に染みただろうと思います。こう感じるのはソースを重要視する欧米の料理より素材の味をそのまま味わいたい日本人だからだろうか、それとも個人的な志向だろうか。スピルバーグ&メリルのラスボス的大物に盾突く気はないし、俳優さんが持てる力で見せてくれる演技に「うーん、巧いっ!」とうなるのも大好きですがね…