散歩好き

井の頭公園で犬とまったり。

オーケストラ!

335957view003 武蔵野ミューで「オーケストラ!」を観てきました。こういうミニシアター系のをやってくれるのはホントにありがたい。ル・シネマは頭がじゃまだしスクリーンも小さいから、極力行きたくないのです。でも、Bunkamuraが改装というニュースを見ましたので、できればスタジアム・シートを導入していただきたいものです。

ボリショイ交響楽団の掃除夫・アンドレイは、かつてこの楽団で天才指揮者として活躍していたが、ブレジネフ政権時のユダヤ人団員弾圧に関わってしまい、その座を追われる。それから30年。掃除中に見つけたフランスのシャトレ座からのオファーを見た彼は、昔の楽団仲間とともにパリで演奏するという途方もない計画を立てるが、それは功名心からだけではなかった・・・

昔々、あるところに貧乏な女子大生がいました。クラシック好きの彼女はレコードを買うお金もありませんでした(そもそもレコードをかけられるデッキが下宿になかった)。ある日、ハイフェッツが亡くなったことでNHKFMでチャイコフスキー「バイオリン協奏曲ニ長調」が放送されることを「FNFAN」で発見、彼女は直ちにエアチェック(死語ですな)し、授業に出かけていきました。帰宅しておやつを食べながら名曲を聴き始めた彼女は感動で胸がいっぱいになり、ひとりだったことをいいことに好きなだけ感涙にむせびました。オーケストラの演奏は古い手法で、モノラルでバリバリと雑音も入っていましたが、泣きながら食べる100円ケーキはノドで石のように感じました。

あの日の感動よ、もう一度。クライマックスシーンのこの曲は、私だけではなく多くの人が泣きながら聴いていましたよ。20数年後、女子大生はおばさんになってあの頃に比べれば余裕が出てきたので、この映画のサントラを買うか、ハイフェッツのCDを買うか迷っています。なんだよ、両方買えよっての!

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この映画のスゴイところは感動もさることながら上質のコメディでもあり、社会派でもあること。感動してる時にあはっと笑わせたり、深刻なシーンなのに滑稽だったり、緩急があって楽しい!フランス映画的アイロニー+ユーモアがちりばめられていていました。社会派といっても描き方があっさりしているので、変にべたべたしないのがかえって沁みるものがあります。

画面にも工夫があって、たとえばフランスのシャトレ座と電話で出演交渉するシーン。ロシア側の電話は地下室の暗い汚い場所にあり、電話はかけられるかどうかわからないシロモノ。大声で会話します。一方その話し相手であるシャトレ座のマネージャーがいるところは洗練された白いオシャレな空間。「そんなに大声出さなくても聞こえますよ」という電話を持つ手はイメージとして小指が立っているようなカンジです。LA交響楽団にキャンセルをくらったシャトレ座はボリショイにオファーすることでかなり財政的に助かったんですが、ロシア側はすごく強気でマネジメントしたつもりになっている・・・という事実と立場をさりげなく部屋の違いで見せているのです。ちょっと西高東低なヨーロッパ人の目線とか、ちくちくっと見せるわけですね。

ありえない設定と展開はいくらでもあるわけですが・・・コンサートマスターがロマの人とか、長いこと楽器から遠ざかってるのにいきなり演奏とか、トランペットの人がチューニングもしないで本番に臨むとか、もっとすごいありえない設定があったりしますが、細かいことは気にしない~♪と言わせるだけの魅力がこの映画にはあります。つまんない映画だとめっちゃ気になるんですが・・・

クライマックスシーンの出だし、やっぱりというか思わずワールドカップで惜しくもゴールが決まらなかったときのベンチくらいの勢いで頭を抱えてしまいました(実話)。が、その演奏の中で色々なことが起こる・・・出生の秘密、曲への思い、折れたタクトをテープで止めてあるのはなぜか、仲間との思い出、自分のプライドを取り戻す瞬間、後悔、希望、その後・・・コンチェルトの盛り上がりに連れて怒涛のように押し寄せる感情・・・演奏は感動的なのですが、表現は淡々としていて、その上感動の中でまた笑わせる、そのこまやかな演技と演出に振り回されましたよ、この監督タダモノじゃないなあ。また感動させてください。付いていきます。